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過去を振り返れば羞恥心に苛まれ、未来を想像すれば不安に襲われる。ただ道を踏み外さないように、足元だけを見つめて一歩一歩進むのが精一杯。だからせめて足跡を残そう。


by koharu65

 15、6年前、北京の学生寮に住んでいた時のこと。ある夜、部屋の明かりを消してベッドに横たわると、部屋の隅に小さな白い光が見えた。電気をつけて近寄ってみると2cmほどの艶のない真っ黒な虫がいて、写真でよく見る頭の部分が赤い日本の源氏蛍と違って、なんだか醜い様子だけれど、きっと蛍の一種なのだろうと思った。こんな都会に、しかも、近くに水辺があるわけでもない寮の部屋の中にどうして蛍が紛れ込んだのろうと不思議に思ってなんだかどきどきした。明かりを消してベッドに戻りしばらく待つと、光はゆっくりと浮かび上がり、部屋の中を舞い始めた。
 その蛍は二日前に亡くなった子供なんじゃないだろうかと私は思った。この世を離れる前に名残を惜しんでいるのかもしれない。或いは小さな光は遠慮がちにその存在を私に伝えようとしているのかもしれない。ここにいますよ、とでも言いたげに、ふわふわと漂っている。
 私は小さな光を胸に抱きながら眠りについた。
 翌朝、蛍はもう姿を消していた。
by koharu65 | 2007-05-19 00:00 | 雑感