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過去を振り返れば羞恥心に苛まれ、未来を想像すれば不安に襲われる。ただ道を踏み外さないように、足元だけを見つめて一歩一歩進むのが精一杯。だからせめて足跡を残そう。


by koharu65

防衛大の棒倒しと、村上春樹の『1Q84』

 防衛大学の開校祭で、毎年、棒倒しという競技が行われているそうだ。
 参考(ウィキペディア):
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%92%E5%80%92%E3%81%97#.E9.98.B2.E8.A1.9B.E5.A4.A7.E5.AD.A6.E6.A0.A1.E3.81.AE.E6.A3.92.E5.80.92.E3.81.97



 youtubeで見たのだけれど、これがすごく面白い。
 まさに肉弾戦。体と体のぶつかりあい。迫力満点で、見ていると自然と血沸き肉躍り、力がみなぎる興奮を味わうことができる。
 そして、ただ肉体の戦いというだけでなく、上の動画のように作戦が図に当たり味方同士の連携がスムーズにいく光景は、芸術的に美しい。
 この防衛大の棒倒しには、“死ぬ気で戦う”という激しさがある一方で、本当の危険を避けるためのいくつかのルールがちゃんと考えられているようだ。(例えば、空手道部やボクシング部の部員は参加できないとか。)
 それから、これは普段ちゃんと肉体的な訓練をしている人たちだからこそ、安全性が確保されるのだと思う。技術的な指導や訓練を前提とした上で成り立つ競技ではないかな。

 で、話がいきなり飛躍するようだけれども、これを見て思ったのは、コントロールされて技術的に研ぎ澄まされた力は、必ずしも野蛮ではない、ということ。
 無目的に増幅した負の感情に支配された暴力は恐ろしい。戦後日本人は、そういう暗い感情に支配された暴走する力を恐れるあまり、力の存在そのものをあってはならないものとして否定する傾向があるように思う。力を理性によってコントロールする手段や技術を学ぶことを怠ってきたのではないか、と思う。

 ついでに、さらに飛躍した話を。
 村上春樹の小説の男性の主人公は、いつも優しくて人を傷つけないタイプなので、一見彼の小説はやわらかで軽やかで、癒し的なイメージがある。でも、実はすごく怖いものを抱えてるんじゃないかと、私は思う。(だから、実をいうと、あまり好きではない。)
 『1Q84』に青豆さんというヒロインが登場するが、彼女は“強固な信念”のもとに、研ぎ澄まされた技術で人を殺す。
 ならば、村上春樹は、悪い奴を抹殺するという正しい目的のためなら、人を殺してもいい、と言ってるのだろうか?自分の強固な信念を正しいと信じて敵を討つ例は古今東西、数多くある。
 しかし、一方で、『1Q84』では、人を殺すことによって自分自身の心も削られていく青豆さんの張りつめたような危うい生き方も描いている。決して青豆さんの生き方が賛美されているわけではない。
 彼の小説は、実際にはあり得ない想像の世界の物語だけれど、その中に生きている人々は私たちの実際の世界をリアルに投影した問題意識を抱えているように思う。
 『1Q84』の登場人物たちは、強い者も弱い者も共に精神の底に暗いものを抱え込み、暴力を振るう者も振るわれる者も共に何か抵抗できない大きな流れに飲み込まれ、その生を損ねている。そんなふうに思う。
by koharu65 | 2012-06-16 17:12 | 本・小説・映画